部を他の農家に貸し、以降は「手の届く範囲」の70㌃を耕作している。に出て両親を手伝っていた。「いつかは自分が継ぐ」という意識は若い頃からあったという。その表れが、当時から付けてきた詳細な作業記録だ。面積、畝の幅、肥料の種類と量など、項目ごとにエクセルで作成した表に入力する。出荷した日は、市場での取引価格の記録を欠かさない。こうして20年以上にわたり蓄積してきたデータは、その後の農業経営の貴重な糧になっている。種をまいてから収穫までのプロセスを追跡すれば、その年の課題が浮き彫りになり、次の改善へとつなげることができる。売り渡し価格の推移は、変動する相場のリアルな記録だ。「積み上げたデータは、いつか経営を引き継ぐ時にも、何かの役に立つと思う」て、経営の支えとなっているのが地域とのつながりだ。上菅田は農業の盛んな土地柄。寺社の世話人を務める関係で顔を合わせる氏子や檀家は多くが農家で、「会えば農産物の価格や病害虫のこと、新しい農業資材のことなどで話が盛り上がる。大切な会社勤めのころから、休日には畑種をまいたときは、その品種や量、多くの作業記録のデータと併せ情報交換の場になっている」定年で家業に就いた渡邊さんは、「第2の人生を楽しもう」という思いで農業と向き合っている。長年、サラリーマンとして社会でもまれてきただけに「もうカリカリすることはない。相場に一喜一憂することなく、自分が納得できる作物を育てることに専念したい」と話す。そんな渡邊さんが楽しみとしているのが、普段は作らない野菜の栽培だ。市場出荷の15品目とは別に、これまでアスパラガスやパクチーなどを育ててきた。「決まった品目を毎年繰り返し作るだけでは、何か物足りない。畑の一角でちょっと違う野菜を育ててみれば、気分も変わる」。販売目的というよりは趣味に近い発想。できた野菜を知り合いに分けて喜んでもらえると、自身のモチベーションも上がってくる。次は温床栽培でメロンに挑戦してみようかと思索中だ。「栽培経験のない作物だからうまく育つかはわからない。でも楽しみとしてチャレンジしていることだから、ダメで元々。これで農業人生が充実すればいうことはない」
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