技術顧問 北尾 一郎(左上)【写真2】葯採取機で葯を分離(左下)【写真3】葯精選機で花糸除去(右下)【写真4】精選された葯がくやくかし土や緑とふれあう暮らし緑の情報箱横浜を代表する果実「浜なし」も10月を迎えて今年の販売は終了しました。ところで、高品質なナシ栽培にはしっかりとした受粉が不可欠で、中でも一つ一つの花に花粉を付けてあげる「人工授粉」はとても重要な作業です。今回は、「浜なし」の人工授粉についてお話ししましょう。1.なぜ受粉が必要なのでしょう「浜なし」を代表する品種「幸水」「豊水」をはじめニホンナシのほとんどは、自分の雄しべから出る花粉が雌しべに付いても種子を結びません。これを「自家不結実性」と呼びます。2.花粉を集めるための花摘み作業はどう やるのでしょうナシの生産者は花粉をとるための「花粉専用品種」を植えている方が多くいます。これは「受粉樹」とも呼ばれ、「幸水」「豊水」などの品種より開花が早く、花粉の量が多く、複数の品種との相性が良いことが重要です(品種によっては花粉を付けても種子を結ばないことがあります)。「浜なし」の受粉樹には「松島」という品種を使っている生産者が多いようです。多くの品種は自分と異なる品種の花粉が雌しべに付かないと果実にならないのです。そのため安定してナシを生産するには、人工授粉するかハチなどの昆虫の働きを利用することが必要です。人工授粉を行うにはまず、そのための花粉を集めなければなりません。浜なし生産者は3月下旬の桜が開花を迎えるころから花粉を集めるため、受粉樹の花摘みを行います。ちょうどよい咲き加減の花を手摘みしますので、家族総出の大仕事となります(写真1)。時には雨の中でも行わなくてはなりません。【写真1】受粉樹からの花摘み作業3.花から花粉をとるにはどうやるのでしょう花粉が入っているのは雄しべの先にある「葯」と呼ばれる部分のため、花びらや萼などから葯採取機を使って葯を分離します(写真2)。その葯には花糸といって雄しべの糸のような部分が残っていますので、次に葯精選機により花糸を取り去って(写真3)、純粋な葯だけにします(写真4)。自然のナシの花は、花の生長と春らしい気温によって葯が開いて花粉を出しますが、人工的に分離した葯は、温度と湿度をコントロールできる開葯機(写真5)に入れ、25℃で12時間ほどかけて開葯させることで花粉が出てきます。それらの花粉は葯の殻などが混ざったものなので「粗花粉」と呼んでいます。生産者は粗花粉で授粉作業を行う方もいますが、授粉に使【写真5】開葯機用する機材によっては葯殻などを取り除いた「純花粉」に精選する必要があります。花粉の精選にはアセトンなどの有機溶剤を使用しま「浜なし」の人工授粉はどうやるの?
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