Agri横浜 vol.210
8/13

金融機関で営業や融資を経験し、キャリアを重ねていた鈴木さん。充実したサラリーマン生活で、仕事にやりがいを感じていたが、5年前に父を亡くしたことから就農を決意した。それまで農作業は週末に手伝う程度だったが、「やるからには中途半端にしたくない。農業でしっかり舵取りをしたい」と、将来を見据えての決断だった。しかし、自力で初めて育てたトマトは、〝変なトマト〟だった。すぐに、JAの森東と海み雄お営農技術顧問に相談。原因は、果実の尻が黒くなる尻腐れ病だった。JAでの土壌分析の結果、カルシウム不足が原因だと判明。父が病気になって3年間作付けをしていなかったため、土壌が枯れてしまっていた。ただ、この失敗が鈴木さんのやる気に火をつけた。土作りは、父の代から苗を仕入れる愛媛県の種苗会社のもとで研究した。さらに、新潟県南魚沼市で有機栽培のコシヒカリを生産する農家からは、魚粉の使い方を伝授してもらった。従来の味を生かしながら、甘みを増すことが目的だった。土作りへのこだわりは人一倍強い。収穫期後、総合土壌消毒剤を散布し、表面をビニールシートで20日間覆って太陽熱消毒を実施する。さらに、市内では珍しくなった土壌洗浄をする。近くの水路から水を引き込めるよう地下に土管を埋め、川をせき止めると、ハウス内に設置したマンホールから水が出る仕組みで、ハウスの建設当時に父が作った設備だ。ハウス内の縁に沿って畝を立て、水田のように水を張る。土を洗うことで、トマトの過剰な生長を促す窒素分を減らす。約1カ月かけて2つの処理を行った後、土壌分失敗から火がついた農業鈴木勇次さん(46) 金沢区釜利谷土壌分析で理想の土作りハウスにある土管の開口部 金沢区釜利谷地区の3方向が山に囲まれた谷戸の一角に、ハウスを構える鈴木さん。周辺には湧き水が水路となって流れ、以前は水田や蓮田だった。ハウス5棟15アール含む計38アールを一人で担い、トマトやジャガイモなど年間25品目を生産している。「釜利谷トマト」の愛称で親しまれる隠れた名産品を主力に、父が残した施設を生かし、安全・安心でおいしい野菜作りに力を注ぐ。⽗の背を追いハウストマト地元密着⽬指しUターン

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る