Agri横浜 vol.217
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みの技術顧問北尾 一郎2 「藤稔」物語「藤稔」は圧倒的なボリューム感がある紫黒色の大粒ブドウです。1粒重が20~25gで1房25~30粒ほどなので、1房重は500~700gにもなります。「巨峰」の1粒重は12gほどですから、2倍ほどの大きさです。「浜ぶどう」が昨年「かながわブランド」に登録され、名実ともに「浜なし」に続く横浜を代表する果実になりました。今回は「浜ぶどう」とは何かをご紹介しましょう。なお、「浜ぶどう」は「浜なし」と同様に品種名ではなく、JA横浜果樹部員が栽培した横浜産ブドウの総称です(文中の表現は一般名として「ブドウ」と表記します)。1 「浜ぶどう」とは横浜のブドウは全量直売(直売所、庭先販売、宅配便出荷など)のため、スーパーマーケットや量販店などには出回りません。ブドウ園では消費者の多様なニーズや販売期間の延長のためにさまざまな品種が栽培されていますが、中心となるのは紫黒色の超大粒品種「藤稔(ふじみのり)」です。赤い品種では「竜宝(りゅうほう)」「安芸(あき)クイーン」などがあります。そして、「藤稔」に並んで現在人気上昇中の品種は、緑黄色の「シャインマスカット」です。ブドウは4月初旬に発芽し、5月下旬に開花・結実しますが、最近はほとんどの「浜ぶどう」が種なし栽培なので、そのための作業が加わりました。6月に入ると、高品質なブドウ生産のために房数や1房当たりの粒数を制限する摘房・摘粒の作業が続きます。10a当たり2000~3000房、1房当たり25~35粒を目標に行います。それと並行して、房に雨が当たらないよう袋かけをします。7月上旬には膨らんできた果粒に透明感が出てきて、徐々に着色が始まります。目標とする糖度が十分に上がったら収穫を迎えます。「浜ぶどう」の販売期間は、おおむね8月上旬から9月下旬ごろまでですが、最も多く出回るのはお盆前後から9月上旬となります。横浜では8月のお盆ごろから下旬にかけて出回ります。ほぼ全てが種なし栽培され、糖度は17~19度で、しつこくない甘みが特徴です。皮は果粒の着いていた3 「竜宝」物語「竜宝」は「藤稔」より早く8月上旬から収穫が始まる早生の赤色大粒ブドウです。果肉が非常に柔らかく口の中で果汁が溢れるようなジューシーさが特徴です。糖度は高くフォクシー香という独特な香りもあります。果粒の付け根が弱く輸送性が劣るので、横浜のような直売地域でないと食べられない幻の品種です。このブドウの元々の名前は「井川668号」で、前出の井川さんが作った品種ですが、これを山梨県中巨摩郡竜王町(現在は合併して甲斐市)の農協が1980年に「竜宝」として品種登録しました。“竜王町の宝”というところでしょうか。軸と反対側からだときれいにむけます。「藤稔」は藤沢市の青木さんという果樹農家が作出しました。「藤稔」の両親は♀「井川682号」と♂「ピオーネ」で1985年に品種登録されました。ちなみに母親品種の「井川682号」を作った井川さんは静岡県伊豆半島の著名なブドウ育種家でした。なお、父親品種「ピオーネ」の母親は「巨峰」なので、「藤稔」は「巨峰」の孫になります。ところで「藤稔」という名前は「藤沢で稔った」ところから名付けられましたが、当初は「プレジデント」という名前になる予定だったようです。しかし当時、食品で「プレジデント」という同名商品が販売されていたために使えなかったようです(青木果樹園HPより)。そういえば「プレジデント」という自動車もありましたね。結果として誕生地にちなんだ名前になり、私はかえって良かったように思います。時々メディアで話題になる石川県特産の超高級赤色ブドウ「ルビーロマン」は、「藤稔」の種子から育てた実生の中から選抜されたものです。土や緑とふれあう暮らしかながわブランド「浜ぶどう」のお話緑の情報箱

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