専門家に聞きました 東京大学大学院農学生命科学研究科中嶋康博教授 法改正について、二つのポイントに絞って解説しましょう。(1)サービス事業体との連携が進む 今、世界の人口増や政情の不安定化、異常気象の多発など、日本の食料安全保障を脅かすリスクが増大しています。一方で、国内の農業も担い手不足や高齢化が進み、食料自給率や農産物産出額は長らく低水準のままです。 切迫する日本の食料事情を解決する切り札として期待されているのが「スマート農業」です。これらを広めていくためには、改正基本法にもある通り、農業従事者とそれらを支援する事業者(サービス事業体)との連携が欠かせません。「ドローンによる防除作業」「センサー技術を使った生育予測」「AIによる育種管理」など、高度な技術を駆使した農業をサービス事業体と共に推進していくことが、食料安全保障の強化につながると思います。(2)海外への輸出が増加する 今回の改正基本法に新たに加わったのが「輸出の促進」です。農業従事者の収益向上が期待できるだけでなく、万が一のときは国内用にも転換でき、国内供給の下支えにもなるといわれます。輸出を推進する上で生産物に付加価値を与えられるかがポイントです。これにより輸出をうまく軌道に乗せることができたら、若手の就農者が魅力を感じて事業に参加してくれる可能性もあるでしょう。輸出の促進は、持続可能な農業を実現する上で重要な取り組みになると思われます。 改正基本法には「環境と調和」が新たな理念として取り入れられました。これを受けて、減農薬・減化学肥料などを通じて環境および生物多様性保全に取り組む農業従事者に対して公的支援(環境保全型農業直接支払交付金)が適用される見込みです。 環境に配慮した農法は手間がかかり、収穫量も安定しにくいため、農産物の価格上昇につながることが予測されます。そのため、改正基本法の「消費者の役割」の項目には、「お店で購入するときは、環境負荷低減に役立つ商品を選択しましょう」という文言が追加されたのです。 農業は食料システムの一部なので環境問題を考える際も、生産者だけでなく、商品を購入する消費者を巻き込んだ方が、より良い成果を上げられると思います。今回の改正基本法を通じて、消費者の皆さんも地球環境問題を自分ごととして捉え、少々値段が高くても環境配慮型の商品を選ぶという習慣を身に付けてもらえたらと思います。法改正によって日本の農業はどう変わるの?私たち消費者が毎日の暮らしに生かせることは?一人一人が地球環境問題を自分ごととして考えるきっかけに食料安全保障強化に向けてスマート農業や輸出増が進むJAグループでは統一広報資材により、「国消国産」への関心喚起、食や農への理解醸成に取り組んでいます。
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